1. NMR ってなに?

NMR(核磁気共鳴, Nuclear Magnetic Resonance)は、分子の中の原子一つひとつが「どんな環境にいるか」を調べる方法です。木材の研究では、リグニンの構造や多糖の組成・結晶性を調べるのに欠かせません。

原子核は小さな磁石

水素(1H)や炭素 13(13C)の原子核は「スピン」という性質をもち、小さな磁石のようにふるまいます。ふつうの炭素 12C はスピンがゼロなので NMR では見えません。炭素の NMR は、天然に約 1.1% だけ含まれる 13C を見ています。

この原子核を強い磁場の中に入れると、磁場に対する向きによってエネルギーに差ができます。そこへちょうどその差に合う周波数のラジオ波を当てると、原子核がエネルギーを吸収します。これが共鳴です。共鳴の後に原子核が出す信号を受信して、周波数ごとに並べたものが NMR スペクトルです。

「400 MHz の NMR」とは

共鳴の周波数は磁場の強さに比例します。磁場 9.4 T(テスラ)の装置では、1H は約 400 MHz、13C は約 100 MHz で共鳴します。そこで、この装置を「400 MHz の NMR」と呼びます。数字が大きいほど磁場が強く、ピークどうしが分かれやすく、感度も高くなります。

スペクトルからわかる 4 つのこと

見るところわかることレッスン
ピークの位置(化学シフト)その原子がどんな環境にいるか(酸素の隣か、芳香環の上か など)2
ピークの面積(積分)1H の場合、その環境にある H の数3
ピークの分裂隣の炭素にある H の数3
2 次元のクロスピーク(HSQC など)どの H がどの C に直接つながっているか8

木材研究での NMR

NMR は、分子の中の水素や炭素の一つひとつに「あなたはどんな場所にいるの?」と質問して、ラジオ波で返事を受け取る装置です。返事の「声の高さ」(周波数)は、いる場所によって少しずつ違います。その声の高さを横に並べたグラフがスペクトルで、これを読むと分子の形がわかります。

まずは実物を見てみましょう。エタノールの 1H NMR です。3 種類の H(CH3・CH2・OH)が別々の位置にピークを作っています。